ラジオ番組 みんなの健康ラジオ
2023年10月26日放送(放送内容 資料はこちら)
認知症とは「生まれた後、年を重ねたのちに徐々に物忘れをするようになり、物忘れの程度が不可逆的に悪化していく脳の病気」と定義できる。「治る認知症」との文言を書籍やTVで見たことがあるかもしれないが、現在でも“真の”認知症は治らない病気(アルツハイマー型)である。
認知症の考え方は大きく二つに分けられる。一つは“生物学的視点”で、「認知症は脳神経機能の低下とそれによって起こる問題行動や心理状態である」とする考え方で、お薬や食事などによって「克服すべき課題」「矯正すべき障害」であるとして認知機能を向上させ「治そう」とする姿勢が強く感じられる考え方である。
これに対して“症候学的視点”とは「認知症は自己肯定感が傷つきこれまでの対人関係が壊れる病であり、関係性悪化を背景とした精神的反応として問題行動が生まれる」と捉える見方で、この視点に立つと認知症は超高齢社会においては当然生じるべきもので、脳機能を維持向上させることを第一には考えず、いかに自己肯定感を回復・維持し生きがいをもって人生を送れるかを優先させる治療へと結びついていく。
認知症と診断された人の心境が具体的な言葉として語られることは稀であるが、オーストラリア人でIQが200近くの若年性アルツハイマー型の方は「霧の中を苦闘して生きるようなもので、だんだん感情的になり認識力が衰えてくるので、あなた方の言っていることの内容ではなく、その言い方が記憶に残る。感覚としてわかるけれども、その筋道はわからず、あなたの微笑み、笑い、そしてあなたの感触が、私達に通じるものだ」とその内界を述べている。これを踏まえて次回は認知症への関わり方について考えてみたい。
2023年11月2日放送(放送内容 資料はこちら)
認知症に対する治療も含めた取り組みについて考えてみたい。前回は「認知症は治らない」とお話ししたが、では医師も含め関わりのある人はその当事者に対してどうあるべきなのだろうか。
大事なこととして、認知症の診療とは「生活を診る」ことに他ならず、病を持ちながらもいかに生き生きと生活できるか、自己肯定感を回復し維持できているかを確認し、アドバイスすることである。対応と介護の基本は「慰め、助け、共にする」であり、本人と接するときの鉄則は「指摘しない、議論しない、怒らない」である。
家族や介護者の本人に対する陰性感情も理解できるが、「今している介護は大変だと思いますが、それが永遠に続くわけではなく、本人が亡くなられた後『ああ、あのときこんなこともしてあげればよかった』と後悔するときが来るかもしれません。今はとても大変だと思いますがもう少し頑張ってみてはいかがですか」とお勧めすると「そうですよね、もう少しやってみます」と答えられる方が多い。
一方で介護に疲弊して追い詰められる家族も多くおられ、デイサービスやショートステイの利用、病院での入院や老健への入所などを早めに検討すること、一人で抱えずケアマネージャーなどに相談に乗ってもらうなど家族にも寄り添える姿勢が大切である。
認知症は高齢化が進む社会においては必然的に起こり得る病であるととらえ、ことさら問題視するようなことはせず、長寿になったのだから認知症になったっていい、認知症でも楽しく生きることを考えよう、そういう意識を持ちたいものである。