ラジオ番組 みんなの健康ラジオ
2025年7月3日放送(放送内容 資料はこちら)
睡眠について
日本人全体の平均睡眠時間は7時間22分であり、加齢とともに減少します。
睡眠はノンレム睡眠とレム睡眠に分けられます。レム睡眠は急速な眼球運動を伴い脳は活動し、身体は休み夢を見ます。ノンレム睡眠は眼球運動を伴わず、深い眠りであり記憶の強化を行います。一晩の睡眠の経過は約90分周期で4~5回繰り返します。
また生物時計のコントロールにより睡眠・覚醒リズムや生理機能リズムの適切なバランスが保たれることで、良質な睡眠と日中の高い覚醒度が維持されます。
覚醒と睡眠は、脳内における覚醒システムと睡眠システムという、2つの相反するシステムで調節されています。通常、人が眠るときには、覚醒システムの働きが弱まり、睡眠システムの働きが優位となることで、眠ることができるようになります。
不眠症は覚醒システムが亢進している状態であることが、最近の研究において明らかとなっています。オレキシンは、視床下部で産生され、覚醒の調節に重要な働きをしています。脳内のオレキシンレベルは、覚醒時に高くなり、睡眠時に低くなります。
不眠症について
不眠症では入眠障害、中途覚醒、熟眠障害、早朝覚醒があり、日中の生活に支障が生じます。入眠困難の頻度は年代による差はありませんが、中途覚醒・早朝覚醒の頻度は加齢に伴い増加する傾向にあります。
不眠症の原因としてはストレス、うつ病等の精神疾患、アルコールや薬物の影響、生活リズムの障害、身体疾患等があります。不眠症患者は、不眠症のない人と比べて身体疾患の有病率が高い傾向にあります。特に慢性疼痛や胃腸障害、高血圧の人は不眠症の人が多いです。
また不眠症でみられる代表的なQOL障害として①日中の眠気、疲労感、倦怠感②注意力、集中力、記憶力の低下③抑うつ気分、焦燥、いらいら感などのうつ症状④意欲低下、興味の減退など社会活動性の低下⑤眠気や集中力低下による仕事のミスや運転中の事故の起こしやすさ⑥睡眠についての際限のない心配や悩み、睡眠薬への依存等があります。
睡眠障害によって引き起こされる生産性低下による社会的損失は年間3兆665億円と推定されています。
2025年7月10日放送(放送内容 資料はこちら)
不眠症の治療
不眠症の治療は大別すると睡眠衛生指導+薬剤の使用と休薬となります。
不眠症の治療としては、まずは非薬物療法からで睡眠衛生指導をします。
- 定期的な運動をしましょう。有酸素運動をすれば寝つきやすくなり、睡眠が深くなります。
- 寝室環境を整えましょう。音対策のためにじゅうたんを敷く、ドアをきっちり閉める、遮光カーテンを用いるなどの対策も手助けとなります。また寝室を快適な温度に保ちましょう。暑過ぎたり寒過ぎたりすれば、睡眠の妨げとなります。
- 規則正しい食生活を行いましょう。空腹で寝ると睡眠は妨げられます。
- 就寝前に水分を取り過ぎないようにしましょう。夜中のトイレ回数が減ります。
- 就寝前はカフェインの入ったものは取らないようにしましょう。寝つきにくくなったり、夜中に目が覚めやすくなったり、睡眠が浅くなったりします。
- 眠るための飲酒は逆効果です。アルコールを飲むと一時的に寝つきが良くなりますが、徐々に効果は弱まり、夜中に目が覚めやすくなります。深い眠りも減ってしまいます。
- 夜は喫煙を避けましょう。ニコチンには神経刺激作用があります。
- 就寝前に考え事をしないようにしましょう。
次に薬物療法ですが、薬物療法の前に、必ず評価と睡眠衛生指導を施行します。次に症状にあわせて薬剤を選択します。薬物療法が有効であったら、不眠症状と日中のQOL障害の両方が改善し、4~8週間安定してから減薬・休薬を行い、服用をやめても不眠の症状がみられなければ治療を終了します。
現在わが国における睡眠薬治療の問題点としては
- 睡眠薬の長期連用(年齢を問わず)。
- 高齢者、特に認知機能が低下している高齢者では、睡眠薬服用による転倒、せん妄を発症する危険性があります。
- 高用量もしくは多剤併用している患者の比率は漸増傾向にあります。
- 常用量依存、乱用、過量服用等があげられます。特に従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬の依存や乱用、認知機能低下が問題となっております。そのため昨今では依存、耐性がないオレキシン受容体拮抗薬が睡眠薬治療の第一選択薬となっています。