ラジオ番組 みんなの健康ラジオ
2023年7月6日放送(放送内容 資料はこちら)
鼠径部ヘルニアは一般に「脱腸」と呼ばれる良性の病気です。脚の付け根の鼠径部と呼ばれる場所の筋肉組織が様々な原因で弱くなり「穴」や「裂けめ」が生じ、お腹の中にある腸や内臓脂肪などが飛び出してしまい、ぽこっと膨らんでしまう病気です。子供や男性に多いイメージがありますが、女性にも見られる病気です。
成人の鼠径部ヘルニアで大切なことは、
- 自然に治ることはなく手術治療が必要
- 膨らみの症状は、時間経過と共に大きくなることが多い
- 飛び出した腸などが戻らなくなり腐ってしまう「嵌頓」の状態になると、緊急手術が必要になる
ということです。
鼠径部ヘルニアの原因は、鼠径部の組織が弱くなったり、おなかの圧力(腹圧)が上がっておなかの壁(腹壁)がおなかを支えきれなくなることです。鼠径部ヘルニアになりやすい人の特徴は、
- 40歳以上の男性
- 立ち仕事やお腹に力のかかる仕事をしている人
- 過度なトレーニングをおこなっている人
- 糖尿病や喘息をお持ちの人
- 肥満傾向の人
などが挙げられます。
鼠径部ヘルニアの症状は、典型的なものとして、大きくなったり小さくなったりする鼠径部の膨らみ、これは、おなかに力を入れた時に飛び出し、力を抜いた時にへこむ、のが特徴です。それ以外の症状として、鼠径部の違和感や不快感、突っ張り感、腹痛や便秘などです。
女性の場合、これらの症状が月経周期に一致して見られる場合があります。
鼠径部ヘルニアの種類は、
- 外鼠径ヘルニア(男女共に最も多いタイプ)
- 内鼠径ヘルニア
- 大腿ヘルニア(出産を経験して比較的痩せた女性に多いタイプ)
があります。
最後に鼠径部ヘルニアの嵌頓についてご説明します。
これは飛び出した内臓などが戻らなくなり、血のめぐりが悪くなり、最悪の場合、緊急手術が必要になる危険な状態です。膨らみがもとに戻らなくなり強い痛みが出現したり、吐き気やお腹全体に強い痛みが生じた場合は、急いで専門の医療機関に受診してください。
2023年7月13日放送(放送内容 資料はこちら)
鼠径部ヘルニアの診断は、典型的な症状の方は患者様ご自身でもある程度可能ですが、医療機関を受診して正確な診断と患部の確認をしてもらうことをお勧めします。立位での診察が重要で、その他、超音波検査やCT検査が有用です。特に超音波検査は、放射線の被曝の心配がなく体に負担や危険が少ない簡便な検査です。
成人の鼠径部ヘルニアの治療についてです。
成人の鼠径部ヘルニアは、自然に治ることは期待できないため治療は原則として手術が必要となります。日本では年間18万人の患者様が鼠径部ヘルニアの手術を受けています。以前の手術は、弱くなったヘルニアの出口を縫い合わせる方法でしたが、最近は人工補強材を使用した手術が行われるようになり、術後の痛みも少なく早期に社会復帰ができるようになりました。
手術には大きく分けて2つの方法があります。膨らんでいる部分を切開して、ヘルニアの患部を直接見ながら行う「鼠径部切開法」、お腹に数カ所の穴を開けて、カメラや手術器具を入れて、モニター画面を見ながら行う「腹腔鏡下手術」の2つの方法があります。これら2つの手術の方法には、それぞれ長所と短所があるため、患者様のヘルニアの状態や既往歴、全身状態によって安全で適切な術式を選ぶ必要があります。
最後に鼠径部ヘルニアの「外来手術」についてです。
今日の医療技術の進歩により、多くの手術で、手術当日にご帰宅できるようになりました。鼠径部ヘルニアの手術もその一つで、入院の必要がなく外来での手術が可能です。外来による日帰り手術のメリットは、
- 仕事や家庭への影響を小さくすることができる
- 治療費用が入院手術と比較して安い
- 入院等に関する煩雑な手続や準備がいらない
などがあります。
鼠径部ヘルニアの外来手術を考えている患者様は、主治医の先生や担当医に是非ご相談ください。